フィリパ・ピアスさんが亡くなった

2007年1月27日 01時11分 | カテゴリー: 本の楽しみ・図書館・学校図書館

くめがわ電車図書館で出会った「まぼろしの小さい犬」

イギリスの児童文学作家のフィリパ・ピアスが、昨年末に亡くなったとの訃報を知った。「トムは真夜中の庭で」や「ハヤ号セイ川をいく」の愛読者が多いと思うが、私は「まぼろしの小さい犬」が忘れがたい。
ロンドンに住む少年ベンが心の中に飼う「チキチト」と名づけた幻の犬と、現実の世界でベンのものになった犬「ブラウン」。その違いと失望、ブラウンを受け入れられないベン。
少年の回り道した成長、誰もが多かれ少なかれ経験する現実とのギャップに読み手の気持ちが寄り添う。
2001年9月、ロンドンの友人を訪ねた時、児童文学の舞台をいくつか歩いた。「不思議の国のアリス」の著者ドジソンが執筆時に過ごしたオックスフォード大学の学寮や図書館を、当時グリーンカレッジに留学していたもうひとりの若い友人に案内してもらった。それからグレアムの「たのしいかわべ」のヒキガエルたちが冒険するテムズ河の上流マーロウ辺りまで、友人に車を走らせてもらった。
そして、「まぼろしの小さい犬」に出てくるハムステッド・ヒースの公園、ベンが眼下に広がるロンドンの街を眺めるシーン、パラメントヒルに立ち寄った。それは広い広い自然の起伏を生かした公園、いくつも池があり、故人の名前が刻まれた「思い出ベンチ」があちこちにある。高台には、フェルメールの絵のある白亜の「ケンウッドハウス」が眩しい。
ヒースの枯れ草の丘でベンが見たロンドン、時は過ぎたが、同じ場所で私が見るロンドン、ウェストミンスターらしい寺院も、ぼんやり見えた。

2001年9月、ロンドンにたつ数日前に、あのニューヨークのテロが勃発した。ここまで現実がきてしまったのか、という衝撃、虚無感と喪失感のようなものを抱えたあの日。
ピアス、といえば「まぼろしの小さい犬」、ハムステッド・ヒース、そしてテロ・・・
そんなことを再び想いだしてしまったピアスの逝去、86歳。本を開けば、いつまでも永遠に会えますね。(大塚恵美子)
(写真…月一回の読書会でフィリパ・ピアスやカニグズバーグに出会った「くめがわ電車図書館」で)