鹿島恵子さんのアルトに若桑みどりさんを想う

2007年10月31日 23時51分 | カテゴリー: 日々雑感

東久留米市の「聖グレゴリオの家」の聖堂で、オルガン曲の演奏会があった。遠く長崎の友人からお知らせ戴き、女性史を学び続けている友人と一緒に伺った。
10月の初旬に亡くなられた美術史家、ジェンダー文化論の若桑みどりさんのイタリア語のお弟子さんである声楽家の鹿島恵子さんのリサイタルだ。
カトリック教会、宗教音楽研究所でもある「聖グレゴリオの家」は実に美しい。半円形を描く波打つような白い壁と木のレンガ状の床にステンドグラスからの光が清冽なカテドラルだ。25年が経つと聞くが建物の内外ともに美しく、日常の手入れと奉仕にまずもって敬虔な気持ちを抱く。バロックや宗教音楽の演奏にはこの上ない音響、環境だ。
「オルガニストたちの声楽曲を集めて」と題された演奏会は、オルガニストの椎名雄一郎さんのパイプオルガンと鹿島恵子さんのアルトによって奏でられる13世紀からの教会音楽だ。ミラノから持ち帰られた古い譜面からの曲などの紹介を交え、とても暖かみのあるアルトで鹿島さんは歌う。オルガンが聖堂いっぱいに低く高く響く。モーツァルトの時代のフィオローニ、ボローニアのマルティーニのオラトリオ、ミラノのドゥオモのオルガニスト、ピアッツアの曲など、万華鏡のような音色だ。心地よいアルトとオルガンの調和は演奏者のお人柄をも反映されているようだった。長崎の友人からは、若桑みどりさんに捧げる会とお聞きしたが、そのことは、秘めて、おっしゃられなかった。
一年の終わりが近づくにつれ、この年に惜別した方々を想う。直接にご縁があった方ではなくとも折りにつけ思い出される方がいる。そのひとりが若桑さんだ。最後にお話を聞いたのが、3年前、娘のいた大学の特別講義で「ダ・ヴィンチ・コード(ダン・ブラウン)」の史実への曲解に抗議される内容であった。レオナルドを中心にイタリア美術を講義されても、なぜか半分くらいが熱いジェンダー論となってしまうのが若桑流。帰り道に娘と「やっぱり時間が足りなくなっちゃったね。ダ・ヴィンチ・コードはエンタテイメントと思えばすごく面白いのにね」などと笑いあったことが思い出される。ジェンダー研究は、ストレートでありながら理論的で、いつも参考になった。キリシタン美術との接点を描いた「クアトロ・ラガッツィ」は知らなかった世界を見せてもらえ、長崎への旅のきっかけとなった。
深まり往く秋の夕暮れ、余韻に浸りながら親しい友人との帰り道。憧れの先人を遠くから偲びながら。(大塚恵美子)