「ムーミン谷の冬」から教わること

2008年3月9日 18時53分 | カテゴリー: 本の楽しみ・図書館・学校図書館

春はそこに来ている兆しはあるのに、心が寒い、といった日が続く。気持ちが治まらない時は、やはり本だ。美しい布や手仕事が紹介された本もいいが、子どものための本に手が届く。このところは「ムーミン谷の冬」。
「あれは私のムーミンではない」と作者のトーベ・ヤンソンさんを悲しませた一世を風靡したアニメのムーミンではない。ちょっと大きい子向きの話だからRayに読むわけではないが、目敏く見つけ、「ムーミンよんで!」といわれる。なぜ、彼がムーミンを知っているか? 彼の長靴はフィンランド土産のムーミンが「おさびし山」あたりにいる長靴だし、私の朝のマグカップはアラビア社製のムーミンママがついているやつだからである。ヤンソンさんが描いた挿絵を見せる。小さい子の発見はすてきなことが多くて「ああ、そうだね!」と共感することが山ほどある。
ひとつの挿絵をみて「おばあちゃんのコーヒー!」。「ムーミン谷の冬」のムーミンママが雪玉をこしらえて、下からほうりなげた瞬間。その絵柄こそが私の毎朝のコーヒーを飲むカップだということ。「きみはいいやつだな!」と思わず観察眼のよさをほめてあげる。

でも、Rayよ、ヤンソンさんの凄さは挿絵だけではないんだよ。極北の自然の中の生き物や未知の世界からやってくる風変わりでわがままでちょっといいかげんな仲間たちが次々と現れる。この「冬」には、りすの死やお葬式のことも出てくるよ。一足先に冬眠から目覚めたムーミントロールが、寝静まった世界に「世界中がどこかへいっちゃったよ」と狼狽して雪の外へ出る。オーロラや、おかしな人たちとの出あい。ご先祖の話。雪だまりにごろりんとねそべり「これが冬か。そんなら冬だってすきになれるぞ」って思う頃、世界は、ムーミン谷は、ゆっくり春を迎える。
シリーズのうちどれを読んでも、ストーリーは結構脈絡なくハチャメチャ感に溢れるが、言い回しや表現が実によくて。翻訳の山室静さんがいい味出して、かなりはっとする。
いいぞ、ムーミントロール、断じて可愛いだけの妖精じゃないぞ。多様な生き物でこの世界はできている。全員が自分らしく生きていける世界がムーミンから教わる世界観だ。(大塚恵美子)