「パパと怒り鬼」子どもの視点でとらえたDVの絵本

2011年11月4日 18時25分 | カテゴリー: 子ども・教育

先日、ノルウェー大使館で開かれたシンポジウムにお招きを戴いた。テーマは「DV家庭の子どもたちと、加害者対策」だが、友人の中田慶子さん(NPO・DV防止ながさき代表)たちの思いが結実したノルウェーの絵本「パパと怒り鬼」の出版記念パーティでもあった。
ノルウェー文化省・「児童文学賞」受賞作品である絵本に出逢った彼女たちが日本での出版を思い立ち、奔走し、刊行を決意した「ひさかたチャイルド」との出会いと共感がつながり実現した珠玉の絵本だ。
絵本を手に取り、まず翻訳者をみて驚いた。エンデの代表作「モモ」の翻訳で知られる大島かおりさんだったのだ。しかも、DVを子どもの視点でとらえ、絵も文章も詩的で美しい。でも家族ひとりひとり、それぞれの哀しさが胸を塞ぐ、優れた内容であり、どのシーンも忘れがたい力を放つ。

会場は麻布にあるノルウェー大使館、小さなホールの入口にプールがある。夜の闇の中に蒼く佇むプール。まず、このすてきな光景に魅入られてしまう。導入部の印象は絵本の少年ボイの心象と重なり、こころに残る風景となってしまった。
シンポジウムは秀逸で、ノルウェーで活躍されるオイヴィン・アスクイェムさん(原作監修者・家族セラピスト)と信田さよ子さん(原宿カウンセリングセンター所長)のおふたりの臨床の専門家から被害者支援、及び加害者プログラムの現状と課題についての講演を伺った。

ノルウェーは「男女平等先進国」として世界のトップ水準を維持しているが、今なお家庭の中での暴力は存在し、統計では女性の24%が暴力を経験していると聞く。この絵本のようにパパの暴力に打ちひしがれるママと誰にも言ってはいけない、と諭されるボイ。家族一人ひとりにDVは深い影を落とし続け、目撃者である子どもへの支援が乏しい。ノルウェーにおいてもDVの被害を受ける女性の陰で苦しんできた子どもたちの問題は長く見過ごされがちだった。また、DVの加害者は自分の父親であることが子どもの心を複雑に傷つけることになっている。子どもたちには家で起きていることを誰かに話す場が必要なのだ。SOSを発する大勢のボイを私たちは見過ごしてはならない。

DV防止法が制定されて10年が経つが、残された多くの課題について信田さよ子さんは話す。この絵本について、父、母、子、それぞれ違う物語を持っている、と話し始めた信田さんは、長年DV被害者・加害者双方を対象としたカウンセリングを実施し、2004年からは、DV加害者プログラムを実施されてきた。精神科医療との差異化が必要であり、中立的立場ではなく弱者の立場に立つという覚悟が必要であったと。暴力は否定し、人間性を否定しない、という暴力行為の外在化について述べられ、継続した加害者プログラムのグループカウンセリングを通じ、たとえわずかであってもDV加害者が変化する可能性を信じなければならない。そのために有効なプログラムを提供していくと。
多くの人に、そして子どもたちにこの本を手渡し、「悪いのは暴力をふるう大人の方、誰かに話してもいいんだよ」というメッセージを伝えたいと会は終了した。

その後、大使公邸に場を移してのレセプションはとても楽しいものだった。おいしいお料理を囲み、中田慶子さんをはじめとする古くからの友人のわらべうたの相京さん、朝日新聞の杉原さんや、弁護士研修生の塩生さんたちと久しぶりに再会し近況を伝え合う。難民問題に取組む女優の東ちづるさんや三井マリ子さんのお顔も。そして、翻訳者の大島かおりさんと「モモ」の話しなどを交え、ゆっくりお話しすることができ、とても感激。

もの凄くチャーミングな信田さんが言った。「DVのシンポジウムのご案内が大使館の入口に堂々と貼られ、こんなに大勢の参加があるなんて。しかも、憧れのプールのある屋敷が会場とは。男性の参加がもっとあるとよかったのにね。」いずれも同感!(大塚恵美子)